工房千駄ヶ谷が向き合う、社会の「当たり前」を変える服づくり

工房千駄ヶ谷が向き合う、社会の「当たり前」を変える服づくり


I _ for ME の"おかえり"ショーツは、ショーツと部屋着が一体型になった新しいリラックスウェア。デリケートな部分に直接触れるからこそ、信頼できる日本の工房さんと連携して、1枚1枚丁寧につくっています。

"おかえり"ショーツをつくるのに不可欠な、工房千駄ヶ谷。服づくりに向き合う福嶋さんの目は、未来を見つめていました。

"おかえり"ショーツの縫い手
<"おかえり"ショーツを掲げる工場の皆さん>
聞き手: 江連千佳

目次

  1. コロナ禍で変わった洋服の世界
  2. "衣服を縫うことは、その人らしさをつくること
  3. "おかえり"ショーツを縫う理由
  4. 想いのある商品が、届く社会に



コロナ禍で変わった洋服の世界

ミシン


私が衣類製造業に携わったのは20代からなので、大体40年近くになります。同じデザインの服を大量に生産しメーカーに納品する、いわゆる普通のアパレルメーカーでした。でも一生懸命やっても報われず、納期を気にしてほっとしたことなど一度もない。大げさかもしれないけど、資本主義経済という名の化け物にのみ込まれて、のたうち回っていましたよ。

これではいけないと思いながら時が過ぎ、いろいろなことがあり、今の「工房千駄ヶ谷」を立ち上げました。少人数の作り手で、まあ私も含めて二人だけなんだけど(笑)、既製服の製造業です。小さいながらその中でも出来る限り自分たちらしい、やりがいのある仕事をしたいと思いながらやってきたんだよね。

それがここ数年、コロナ禍の影響なのか、洋服の世界が変わってきてると思うんですよ。安定した仕事が持てるわけではない社会で、どうせなら自分のやりたいことをやりたい、それを仕事にしたいと思う人が増えてる気がする。うちの工房の業務内容には、衣類縫製の依頼だけでなく、「ブランド立ち上げサポート」もあるので、自分たちが納得する「洋服を作りたい」という人たちがうちの工房へやってくるようになりました。“おかえり”ショーツもその一つですね。



衣服を縫うことは、その人らしさをつくること

"おかえり"ショーツを縫っているところ


現代の経済社会の衣類製造では、大量生産で、流行も勝手に作られ、一人ひとりが本当に着たい服があるわけではありません。洋服の原点とは、みんな同じではなく、一人ひとりに合わせて作られるものだと思うんですよ。

実はそのように思っていたことをさらに強めたのは、一人のおばあさんの個人の依頼でした。和服の襦袢などを何種類も持ってきて、自分にぴったりの服を作って欲しいというので、いくつも洋服をアレンジして作ったんですよ。この工房に来て、そこに座って「景色がいいわね」なんて言いながら、すごく楽しそうでした。丈をぴったり合わせるところから始まって、こうしたい、ああしたい、「自分らしく作りたい」という風になるんでしょうね。作る過程でもとても楽しそうで、喜んでいただきました。その人らしさをつくれるお手伝いができて、こちらも作ることが喜びになったんだよね。

この工房の立ち上げ当初は、どういう道が最適なのか探るためにも個人の依頼でも何でも引き受けたわけだけど、それだとなかなか立ち行かない。今は個人受注の道ではなく、できるだけ使う側のニーズに応えられる、想いのこもった商品を作って行こうと思うようになったんです。

 

"おかえり"ショーツを縫う理由

"おかえり"ショーツの打ち合わせ
<"おかえり"ショーツの打ち合わせ風景>

最初“おかえり”ショーツの依頼を受けたときには、学生が興味本位で作るんだったら、ちょっと難しいんじゃないの?と正直思ってました。今までの依頼は自己満足になりそうな人多く、誰彼なしに受けるわけではなく、はっきりと断ります。でも本気でやろうとする人は、うちの工房まで来てくれるし、本気度が違うのがわかる。

うちのサポートでは、初めての人にも生地や資材の手配をしてもらいます。“おかえり”ショーツの場合は、最初は自分たちのミシンで商品を縫って来て、生地や資材も自分たちで選んできた。「一生懸命に洋服を作って商品を世に出したい」思いが強く伝わってきました。それにクラウドファンディングも使って、彼女らは本気だとわかったんですよ。


想いのある商品が、届く社会に

"おかえり"ショーツ
うちの工房でものづくりをしたいという人には、製造過程の知識だけでなく、企業秘密みたいなことも含めて、全部教えちゃいます。教えたら人任せにするのではなく、できる限り自分でやってもらうのがポリシーなんです。

繊維業界の仕事の行程はやたら長く、関所みたいな関門もたくさんあるので、当然ながら知識も必要です。適当にやっていると良い製品は作れなくなっちゃう。想いがモノにのらない、それこそせっかく考えたアイディアを商品に活かすことができなくなるんです。

今、想いと志しのある若い人たちがこの業界に入ってきて、すごく嬉しいんですよ。だから若い人たちが自分のやりたいことがどんどんやっていけるように、自分は少しでも手助けができたらいいなと思っている。知識を与えた後は、自分たちでどんどん前に進んでいってくれるのを夢見ています。経験不足で落とし穴に落ちて欲しくありません。今までのような当たり前とされてきた衣類製造業界は狭苦しくて仕方なくってね。「こうでなきゃいけいない」世界から解放されて「こうありたい」ものづくりにいけたらいい。

“おかえり”ショーツのような綺麗で想いのある商品は、その可能性を開くワンステップになると信じています。そしてみなさんに使っていただいて、良さを知ってもらう、そしてまたフィードバックしてもらって、さらに想いのある商品を作る、つまりサイクルをつくることだね。 自分は死ぬまでこの仕事をしようと思っていますが、これからも若い人たちに製造のノウハウを教え、自分の足で立ち、成功するするまで見守れたらいいなと思ってます。“おかえり”ショーツはそんなことを思ったりするいいきっかけになって嬉しかった。一緒に楽しくものづくりをしましょう。

 

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